就業規則のトラブル事例
従業員を解雇した後の賞与支払について、「在籍していた分の賞与を貰う権利はある!」と従業員から詰め寄られた。
就業規則に「支給日に在籍していること」等の文言がなければ支給しなくてなりません。
パートタイマーには、退職金を支給しないのが慣例だが、「就業規則にパートに支給しないとは書いていない!と退職金を請求された。
就業規則が一つの場合、正社員と同じくパート職員にも適用されます。その中に「パート職員には支給しない」旨の記載がなければ、支給しなくてはいけません。なお正職員とパート職員は労働条件や待遇等に違いがあるので、別規定を作成する事が良いでしょう。
無断欠勤で連絡の取れない従業員を解雇したが、数日後本人出勤し「解雇は労働基準法違反だ。明日から働かせてくれ!」と詰め寄ってきた。
労働基準監督署長が解雇予告の除外認定をするためには「出勤の督促に応じないこと」がひとつの要件とされていますので、数日間出勤しないだけでは要件を満たしません。ですからこの従業員を再び働かせなくてはなりません。この場合解雇する為には、無断欠勤が続き、その間に出勤の督促をしてもそれに応じないことが要件とされるのですから、社員が行方不明になったときには、簡易裁判所に対して公示送達の方法をとらなくてはなりません。しかしこの手続き、いろいろと面倒です。ではどうすれば良いか?
「連絡の取れない無断欠勤が一定期間(特定しておきます)続いた場合、その従業員は退職の意思表示をしたものとして扱う」とする文言を就業規則に定めれば良いのです。
退職金を支払った後に、懲戒事由が発覚した。返還を申し入れたが、「懲戒解雇されたものには退職金を支給しない旨の規定がおかれているが、懲戒解雇に該当する事由があるものには退職金を支給しない旨の規定は存在しない」と返還を断られた。
この場合も判例として、会社側は支払い義務を負います。「懲戒解雇」と「懲戒解雇に該当する事由のあるもの」の違いは? 懲戒解雇は会社と雇用関係にある者に対して行う事。「懲戒解雇に該当する事由のあるもの」は、退職後に懲戒解雇事由が発覚した状態。つまり、すでに会社との雇用関係が終了していますので、改めて懲戒解雇とすることは不可能となり、返還(不支給)事由とはならないのです。ではどうすれば良いか?
「退職後に、在職中に懲戒解雇事由に該当することが発覚した場合、既に退職金を支払った場合は、その金額を返還請求できるものとする」とする文言を就業規則に定めれば良いのです。
会社が別会社を独立させ、従業員に出向を命じたが拒否された。この会社は今回が始めての出向命令で、就業規則に出向の定めがなかった。
この場合、やはり出向命令は認められません。就業規則に定めがある場合でも、原則として従業員の同意がなければ出向を命ずるできないのですが、この会社はさらにその規定すら無かったのです。ではどうすれば良いのか?
就業規則に出向に関する具体的な規定(出向先、出向期間、労働条件、復帰に関する事項等)を設け、さらに包括的な同意を得るために「会社は、業務上の都合により社員に出向を命じる事がある」という旨を規定する。
ライバル会社に転職した従業員の退職金を不支給とできるか?
内部機密を熟知した従業員が同業社に引き抜かれ、この機密を利用すれば、会社が大きな損失をこうむることは容易に想像できます。これに制限を加えたいと考えるのは会社の自衛として当然でしょう。しかし憲法に職業選択の自由が定められているため制限を加えることは、難しいと考えられますが、はたしてどう判断されるのでしょうか?
やはりこの場合もまず第一に就業規則に競業禁止規定が定められているかが問題になります。もちろん定めていない場合、返還請求は無効です。競業禁止規定は「退職後一年以内に同市内の同業他社へ就職した場合または同種の事業を開始する場合には、退職金を減額または不支給とする」といった定めをし、禁止する期間・場所的範囲・職種・代償の有無を特定します。しかし、先に述べたように職業選択の自由も認められているため、この条項は必要最小限のものでなくてはなりません。「日本国内で10年間禁止する」なんていうのは認められません。
そしてこの場合の不支給ですが、よっぽどの事情が無い限り減額は認められますが、全額不支給にするのは難しい事案だと考えられます。
不当解雇と社員から訴えられた
解雇を行うには、解雇事由を就業規則に定めておく必要があります。解雇事由を列挙した場合、就業規則に定めがない事由で解雇はできませんので、不当解雇となります。そのため会社としては該当事由を広くすることができるように、就業規則の解雇事由に「その他前記の事項に順ずる理由」という解雇事由を明記しておくのが一般的です。
以下の項目については法律で解雇を禁じています。
- 社会的身分、信条、国籍を理由とする解雇
- 労働組合の活動を理由とする解雇
- 労働基準監督署に会社の労働基準法違反を申告したことを理由にする解雇
- 女性であることを理由とする解雇
- 年次有給休暇を取得したことを理由とする解雇
- 産前産後休暇中とその後の30日間の解雇
- 業務上の怪我や病気の療養中とその後の30日間の解雇
- 女性労働者の結婚、妊娠、出産を理由とする解雇
- 産休、育児休業、介護休業を申告したことによる解雇
就業規則の整備でトラブル予防!! 起こってからでは遅いのです。
上記のトラブルを見てどう思われるでしょうか? 対処法は簡単ですよね。「就業規則に具体的な文言を定める」ただそれだけです。でもそれが簡単だと感じるのは問題が起こって事例が挙がったからです。これが一つ一つの文言を危険性と法律の根拠を交えながら精査し、未然にトラブルを防ぐ措置を講ずるのはやはり骨が折れる作業です。
そういう事こそ法律や判例、最新の法改正を熟知した社労士が実力を発揮する場です。簡単に作成した就業規則の怖さが分かった今だからこそ、就業規則の見直しを検討しませんか?